
|
どんなコレクションにも、最初の1個というものがあるはずです。コレクターというほの暗いけもの道を歩くような、突然、めくるめく眩しい光に包まれるような、ずぶずぶと泥沼に引きずり込まれるような、終わりのない旅に出発する、最初の一歩。おおげさに言えば、それに出会わなかったら、別の人生を送っていたかも知れない1個。 5000匹をとうに超えて、もはや正確な数も把握できない、日ごとに増殖し続ける我が家の招き猫コレクションの最初の1個は、今から18年前、世田谷・豪徳寺で求めた「招福猫児(まねぎねこ)」。飾り気のない白地に赤い首輪が、巫女さんの衣装を思わせる清楚な猫でした。そもそも豪徳寺には写真を撮りに行ったのであって、招き猫を買うつもりは全然なかったのです。当時板東が住んでいた四畳半にキッチンのアパートでは、何かを集めるなど思いも寄らないことでしたから。 それなのに、気がつくと招き猫は1匹、また1匹と増えていったのです。休日ごとに招き猫を探して街を歩き回り、写真を撮るのが楽しくてたまらなくなっていた時期でした。じっくり観察してみると、今まで同じように見えていた招き猫というものは、どれも皆違うのです。白いの、黒いの、ヒゲがあるの、まゆ毛のあるの、小判を持っているの、いないの……。文庫本用の薄い本棚の一隅に招き猫の住み処ができ、瞬く間に彼らはそこを占領してしまいました。それでも100匹を超えるには1年ちょっとかかったと思います。そこから先は坂道を転がり落ちるようなものでしたが。 今、招き猫ミュージアム開設準備にあたって、豪徳寺の招き猫が並んだ一角に立つと数十体の猫たちが、きまじめな顔でこちらを見返してきます。お正月はもちろん、四季おりおりに豪徳寺に詣でては求め、あちこちの骨董市や産地に行っては求めして集まったものです。豆粒くらいから30センチくらいまで大小さまざま、作られた年代もさまざまなこの猫たちの中に、最初の1匹がいるはずなのですが、どうしてもそれがどれだかわからない。大勢の中に紛れ込んで澄まして招いているその1匹こそが、他のすべての猫を招き寄せたゴッドマザーであり、このミュージアムのヘソであるはずなのですが……。 (文:日本招猫倶楽部世話役 荒川千尋 2000.1.12) |